私の本業はSES(System Engineering Service)やっている会社の正社員な訳ですが、たまには本業についても一般論の範囲で書いてみようと思います。SESというのはお客に対してエンジニアとしての労働力を提供する契約形態のことを指します。SES契約を準委任契約(業務委託)とも言います。自分を雇った会社で働くのではなく、自分を雇った会社の「お客の会社」で働くというのがポイントですね。

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似て非なる言葉としては「人材派遣」という言葉がありますね。上記の図のように、具体的な仕事を命令をするのが、お客の場合、「人材派遣」となります。一方、働く場所はお客の会社であっても、「自分を雇っている会社」の業務指示を元に働くのが「SES(準委任契約)」となります。指揮命令権に違いがあるという意味で、現場としては気を遣うところではありますが、俯瞰してみれば、「お客の会社で働く」という構図は変わりません。

早いもので、「人材派遣」「SES」を合算して5年近く業務をしたので、その所感を考えてみたいとと思います。ついでに、派遣労働は悪だとか、格差を生み出したとか、竹中平蔵氏は悪だと世の中騒ぎ立てる人が少なくありませんが、派遣労働やSESは日本にとって必要なのかも考えてみたいと思います。

 【1】入り口は易き
そもそもの話、私がSESをやっているのは、入りたい会社に落ちて面接のやる気が出なくなったときに、たまたま声をかけてきた会社が今の会社だったというのに尽きます。一度面接を受けてみたら、面白いぐらいに話が早かったのです。興味のない会社への面接地獄を続けて働けないよりは、悪くない条件出すので働いてくださいという話に乗った方が良いと考えました。大手企業に正社員として入社する場合は、テレビキー局の新卒だと選考は7回。エージェント経由の中途採用で超優良企業だと3~5回。それだけの選考をクリアするには時間もエネルギーも必要ですからね。

一般論としてSES系の仕事をやっている人たちは、そこまで厳しくない選考をクリアしてきたという意味で、大手の正社員と比較すると、どこかしら偏っている人が多いように思います。いや、大手の正社員が、総合職採用されたという意味でバランスよく卒ないと言った方が正しいかもしれません。多分、正社員or無職の世の中である場合、今SES系の仕事をやっている人の半数は最初の就職で大苦戦した可能性が高いです。失業率という観点でいえば、この仕事は日本に必要です。


【2】スキルの伸びしろが少ない
特にSES業務においては、業務の範囲が良くも悪くも定められています。余計な雑務まで振られないので、気楽ではあります。一方で決められた仕事の範囲内ででしか自由がないため、新しい仕事の創造やビジネスの根幹に関わる業務には簡単には踏み込めないことになります。もちろん、自社の営業と相談し、業務指示内容を変更すればこの限りではないのでしょうが、曖昧な業務をすることで実務経験の幅を広げるのは中々楽ではありません。

また、良くも悪くもSESは有期契約であり、いつまでもその職場にいることが前提とされていません。一方で、正社員の場合は、基本的には長期的にその職場にいることが前提とされているため、育成にも力が入ります。SESの場合、その職場で研修がないこともないですが、あくまでも業務直結の内容であり、長期的キャリア育成の観点には立っていません。もしくは、SESの人を雇っている会社で、研修はあるかもしれませんが、SESの業務とは別に研修時間を設ける必要があります。つまり、主たる業務をやった後で、残業として研修を行うということですね。高度人材育成という意味では、SESは日本の企業社会にとってプラスにはなりません。

また、企業社会における派遣・SESは、軍隊にとっての「援軍」みたいなものです。傭兵について、ルネサンス期の政治思想家マキャベリは以下のように述べています。



こうした軍隊(外国の援軍)は、それ自体は、役に立ち、有能なものなのですが、呼び寄せた側にとっては、いつでも不利益をもたらします。というのは、負ければ破滅し、勝てば勝ったで、支援軍の捕囚となるからです。
(中略)
外国からの援軍は全員団結しており、他の君主に忠誠を尽します。しかし傭兵を使うのであれば、彼らは勝利したときにも、その君主を害するには、時間もかかり良い機会にも恵まれなければなりません。傭兵は全員が一つの団体をなしているのではなく、君主に見出され、給金をもらっているのです。その指揮官になった第三者が、直ちにその君主を害するだけの権力を持つことはありえません。結論を言えば、もっとも危険なのは、傭兵では卑怯さですが、外国の援軍では勇猛さです。
(中略)
だから、賢明な君主はいつもこうした軍隊を避け、自国軍に頼ってきました。自国軍以外の軍隊で勝利するより、自国軍で敗北するほうがましだと思い、他国の軍隊で得た勝利は真の勝利だとはみなさないのです。だから、私の結論では、自分の兵力を持たなければ、いかなる君主国も安全ではなく、逆境のときにその国を防衛しようという豪胆さがなければ、ただただ運まかせということになります。自らの強さに基かない名声や権力ほど不確実で不安定なものはない、というのが賢者の意見や判断です。

マキャベリ『君主論』第13章 外国からの援軍、混成軍、自国軍について
ようするに傭兵や援軍に頼るのではなく、自軍を頼れという話ですね。まあ、たとえそうだとしても、リストラをしやすくなる「雇用の流動化政策」でも実現しない限り企業は正社員を雇うのに躊躇するわけですが。



【3】雇用の調整弁
基本的に、派遣やSESというのは、一時的な人手不足を補強するための手段のひとつです。正社員を雇うには、厳しい選考が必要でありすぐに良質な人材を見つけられないでしょう。また雇ってしまったからには簡単にリストラできないために正直雇いたくないと考える経営者も少なくありません。派遣やSESは、システムの導入などで一時的に作業人員が必要だったり、急な欠員を補填したりする手段です。場合によっては、正社員が長期の病欠や産休育休などで欠員が生じている際に、戻ってくるのか来ないのかよく分からないため、安易に別の正社員を増員できない際にも、期限を定めて派遣やSESを活用するのは合理的ですね。

一方で、SESの業務は、契約によって定められた範囲があります。業務にこなれてきて効率化を進めると、作業時間が余ってしまうこともあるでしょう。業務範囲が狭いが故に、その浮いた時間を別の業務にも回せないとなると、余剰人材とみなされ、そのまま契約を切られてしまう可能性があります。別の言い方をすると、派遣やSESにとって、業務効率化は、ある意味自殺行為な訳です。日本は生産性(生産量÷(労働者数×労働時間))が低いと議論になりますが、SESなど範囲の狭い業務だけをしている人の存在は、日本の生産性を低める原因となります。





正社員の雇用制度が非常にお堅い日本社会においては、人を雇いたくないけど人手不足と悩む企業は沢山あるわけで、派遣・SESは、今後も需要はあるし、伸びしろもあるでしょう。働き方改革が進み、育休が取りやすくなる正社員の雇用を守るためにも、社会的に意味がある存在だと言えます。派遣・SESをやっている私としては、IT業界のエントリーする際には非常に良い仕事だと思います。一方で、キャリア形成という観点において10年以上はあまり人に薦められない仕事だろうなとは思います。また、日本を良くするという観点からすれば、上記の人材育成・生産性で言及したとおり微妙な部分もあります。

個人の好みですがどちらかといえば、リストラされやすいけど雇われやすい「雇用の流動化」促進政策をし、失業保険(ベーシックインカム含む)や職業訓練の充実、いわゆるセーフティネットの強化の方が、良いとは思いますね。5回も面接しなきゃいけない社会の方が違和感ありますもの。庶民感覚を理解しない竹中氏はあまり人格的には好きではありませんが、本来彼が目指そうとした「雇用の流動化&セーフティネット政策」は、多分そんなに間違ったことではなかったと思います。ただ、雇用の流動化だけが中途半端に先行して、セーフティーネットが実現できなかったために、現状があるわけですが。