2020年7月に行われる東京都北区の都議補選が面白くなってきました。東京都議会の北区選出者が2019年に都議を辞職したため、その枠を争う補欠選挙が行われます。立候補予定者は、全員女性。パリテが叫ばれる昨今ですが、「女性として」というキーワードが事実上アピールポイントとして効果が薄い、女同士の血みどろの戦いが期待できそうです。


【1】立候補予定者
氏名:山田加奈子
所属政党:自由民主党
主なキャリア:北区区議会議員(4期、最年少議長経験者)
予測される政策:すべての人に寄り添う都政を!小池都政には党の方針に従う?
関係する政治家:高木啓(自民党衆議院議員 比例東京ブロック)
総評:最も早くから都政を念頭に置いた政治活動をしており先行か?

氏名:佐藤古都
所属政党:日本維新の会・あたらしい党(W公認)
主なキャリア:障害者雇用支援事業会社のブランディング統括局長
予測される政策:あたらしい時代の福祉と多様性、小池都政に是々非々?
関係する政治家:音喜多駿(日本維新の会参議院議員 東京選挙区)
総評:補欠枠を作った音喜多氏の後継者として、どこまで活動できるのか?

氏名:斉藤里恵
所属政党:立憲民主党
主なキャリア:筆談ホステス、前北区区議会議員(日本を元気にする会)
予測される政策:都政のバリアフリー?、小池都政に是々非々?
関係する政治家:蓮舫?(立憲民主党参議院議員 東京選挙区)※前回の選挙で高頻度で応援演説
総評:聴覚障害者としてマスコミで有名になり、区議選ではTOP当選、これを堅持できるか?

氏名:天風いぶき
所属政党:都民ファーストの会
主なキャリア:男役タカラジェンヌ、小池都知事の秘書
予測される政策:小池都政の推進
関係する政治家:小池百合子
総評:小池都知事の側近、都知事支持層の支持を集めることができるか?



【2】それぞれの勝利条件を考える
この補選の枠は、都民ファーストの会で出馬した音喜多氏の枠であり、音喜多氏だから当選したのか、都民ファーストの会だから当選したのか、興味深いところであります。都内では69.7%の支持率(5月末現在)を誇る小池都知事。小池旋風の追い風を受けている天風氏ですが、公認発表が出遅れているだけでなく、北区区内での支援勢力は都民ファーストの会の政治家は山中りえ子区議、ただ一名です。もちろん、身内である都民ファースト都議団の応援は入るでしょうが、外部からの強力な支援が無い限り、単体では強い勢力とは言いづらいです。

その外部勢力の候補に挙がるのはずばり、公明党です。北区は公明党の地盤が圧倒的です。その公明党は、国政では自民党、都政では都民ファーストの会と組んでおります(正確には、公明党は都議会与党から連立離脱しており、立場としては提携関係にあるわけではない)。都民ファーストの会が出馬した場合、確率が高い順に①都民ファーストの会を支援する ②自由投票 ③自民党を支援する のいずれかとなります。何せ、前回の都議選で小池都知事は、当時都民ファーストの会所属の音喜多氏を応援せず、公明党の大松氏だけを応援しているので、公明党との信頼関係はあるとみてよいでしょう。逆に言うと、山田氏の勝利条件は公明票を天風氏に取られないようにすることにあります。

今回注目すべき候補者は佐藤古都氏です。良くも悪くも音喜多氏の地盤を引き継ぐ訳で、前回の参議院選で当初落選するだろうと思われた音喜多氏は、北区の支持者に助けられて当選しました。また、大阪で吉村知事が活躍するなど日本維新の会にとっては追い風の状況です。佐藤氏が勝利するには、佐藤氏自身はそこまで知名度が高くないため、駅前の挨拶活動など、リアルで住民に認知される必要があります。四候補の中で一番若く、アクティブな活動で地上戦を制することこそ重要です。

斉藤里恵氏は、出馬表明がやや遅れていますが、四人の中では北区では圧倒的な知名度を誇ります。また、支持率が落ちている立憲民主党ですが、「検察庁法案」反対運動のうねりを追い風に変え、北区内の勢力となっている共産党の支持を得られるかがキーとなるでしょう。

票の食い合いは以下のとおり
右派層:自民vs維新
創価学会:都Fvs自民
第三極支持層:維新vs都F
左派・マイノリティ:立憲vsあ党(維新)



【3】都知事選との密接な関係
同日に行われる選挙では都知事選があり、この選挙の影響も北区の都議補選に非常に大きな影響があります。理由としては2つです。

・政党を勢いづける
都知事候補者を擁立することで、政党としての勢いを示すことができます。

・都知事選と都議補選の公示日が異なる
投票日は2つの選挙とも7月5日ですが、都知事選の公示日は6月18日、都議補選の公示日は6月26日です。6月19日~25日の間は、各政治団体とも都知事選以外の選挙活動ができなくなるのです。都民ファーストは、党として現職支持の政策などを訴える活動ができますが、自民・維新・立憲も誰かを擁立もしくは推薦しないと、この間指をくわえて待つだけになってしまいます。そのため、都知事選を静観する訳にはいかないのです。

ただし、小池都知事がほぼ勝つことが決まっている出来レースであるため、無理やり擁立して出馬しても負けます。それでも出馬したからには、ある程度の得票数がないと党としてメンツが保てませんし、そのためには金と人員が必要です。都知事選の場合、本気で挑む場合は1千万円でも足りないです。都内1万か所以上に選挙ポスターを張りに行くことだけを考えても、とにかく金がかかるのは容易にイメージできるでしょう。また、現職議員が出馬する場合は、辞職しなければならず、自分のキャリアに穴をあけるし、党としてもその議会勢力を一議席失うので、このケースは考えづらいでしょう。そのため、独自候補を断念し、考え方の近い無所属の候補者に推薦を出したいのが本音だと思われます。


今のところ私個人が勝手に予測した各党の都知事選の動きは以下のとおりです。
自由民主党:川松氏など現職都議会議員から擁立or小池都知事の推薦
日本維新の会・あたらしい党:誰も擁立せず推薦せず(※追記→小野泰輔氏の推薦になる可能性高い)
立憲民主党:現職都議会議員から擁立or宇都宮氏の推薦(※追記→宇都宮氏の推薦確定)

間違いなく安パイなのは小池氏を推薦することですが、三党とも何らかの形で小池都知事に因縁があります。自民は小池旋風で都議会の議席を荒らされ、維新は都民ファの問題点を指摘して離党した音喜多氏がおり、立憲は希望の党への入党を排除された恨みがあるのです。

次に安パイなのは、現職都議会議員を擁立することでしょう。ここで落ちても1年後に都議会選挙があるため、浪人期間ダメージは最小限で済みますし、都政マターということで候補者のキャリアに違和感はありません。ただし、維新は前年の参議院選出馬で都議が0人になってしまったため、この手は使えません。

他に推薦という形がありうる大物候補としては、堀江貴文氏、宇都宮健児氏でしょう。堀江氏の場合は、2005年の衆議院選挙で無所属で出馬した経験がありますが、自民党本部で記者会見を開くなど実質自民党からの出馬のようなものでした。また先進的な政策という意味では維新支持層には共感できるものがあります。ただし、堀江氏をNHKから国民を守る党代表(ホリエモン新党代表兼任)の立花孝志氏が熱心に支持しており、立花氏の露出戦略に疑問を持つ都民のことを考慮すると、自民も維新も立花氏と肩を並べるのには躊躇することでしょう。リベラルからの支持者獲得という意味では宇都宮健児氏も可能性はありえ、これに乗ってくるとしたら立憲です。ただし、実質的に共産党がイニシアチブをとっているため、野党の立憲といえども党勢を呑まれないように警戒はするでしょう。

(※追記→小野氏の出馬によって「反小池保守系支持層」が見込めなくなると堀江氏は出馬しない可能性が高くなる。)


【4】音喜多氏を中心にみる都政と北区政治勢力の変遷


東京都北区の政治勢力は音喜多氏を基軸に見ると、中々面白いので、偏った視点からまとめてみます。元々、北区は公明党と共産党の支持層が強固な特殊な地域です。自民党も強い方で無党派層をかき集め、民主党の支持層が間に入り込むような情勢でした。それが崩れたのは2013年の都議会選挙。

★2013年都議選結果
1当高木けい自由民主党33,918
2当大松あきら公明党28,686
3当そねはじめ日本共産党25,108
4当おときた駿みんなの党13,296
5落原田大民主党10,377
6落くりした善行日本維新の会10,055
7落和田宗春民主党9,690

第三極ブームの追い風を受けて、新人の音喜多氏が滑り込みで当選を果たします。民主党が欲張らずに候補者を一人に絞り込んでいたら、また結果は変わっていたかもしれません。

この音喜多氏に転機が訪れたのは、2014年6月の「セクハラヤジ問題」です。当時、音喜多氏と同一会派(みんなの党TOKYO)だった塩村文夏都議(現立憲民主党参議院議員  東京選挙区)が自民党議員にセクハラヤジを受けました。この時に、最大会派自民党を追及したのが音喜多氏です。これにより、音喜多氏はマスコミに注目されるようになる一方、都議会自民党に敵対視され始めました。

しかしながら、それでも彼が暗殺されずに生き延びたのは、次の2017年の都議選では北区選出の定数が4名から3名に減らされることになっていたためでしょう。黙っていれば4位当選の人はそのうち消えるのです。さらに音喜多氏にとってはショックなことに、2014年秋にみんなの党は、渡辺喜美代表の不祥事をきっかけに解党となり、同党出身の松田公太参議院議員の設立した「日本を元気にする会」に身を寄せるのでした。


2010年代の第三極


次に語るべき選挙は2015年の北区区議会選挙でしょう。
★2015年北区区議会選結果
1当斉藤りえ日本を元気にする会6,630
3当やまだ加奈子自由民主党4,365


山田加奈子氏は堅調に票を集め、上位当選を果たします。この5月に山田氏は、北区区議会の議長に選出されました。このとき、1位当選したのは日本を元気にする会の斉藤里恵氏でした。聴覚障害者でかつ美人であるということで、マスメディアの注目を集めた他、同党の音喜多氏が選挙の参謀となった結果でした。

2016年1月日本を元気にする会は国会議員の離党者が出たため、政党要件を満たさなくなります。これによって音喜多氏もやむなく離党し、無所属となることを選びました。このとき、斉藤里恵氏は党に残留することを希望し、音喜多氏と斎藤氏はここで別々の道を歩むこととなりました。

音喜多氏は政党的には無所属とはいえ、みんなの党出身者が集まった会派「かがやけTOKYO」で都議会での活動を続けていました。2016年春ごろ、音喜多氏は舛添都知事の公私混同問題を指摘。これが大炎上し、舛添都知事は辞職に追い込まれ、舛添都知事を支持する都議会自民党にもダメージがありました。その後の都知事選では、かがやけTOKYOは小池百合子氏を支援する唯一の会派となって戦います。

★2016年東京都知事選結果
1当小池百合子
2,912,628
2落増田寛也(自民党・公明党・日本のこころを大切にする党推薦)1,793,453
3落鳥越俊太郎(民進党・共産党・社民党 他推薦多数)1,346,103

投票日前までは接戦となる情勢が伝えられていましたが、自民党からいじめられる悲劇のヒロインを演じた小池氏が約291万票を獲得し、次点の増田氏に100万票以上の大差をつけ圧勝となりました。この圧勝により、都議会自民党は小池都政を恨みますが、国政自民党は民意を汲んで小池氏と手を結ぶ動きを画策し始めます。2017年1月に「かがやけTokyo」は「都民ファーストの会 東京都議団」に名称を変更しました。音喜多氏はその幹事長に就任し、2017年7月の都議選を迎えます。

★2017年東京都議選結果
1当おときた駿都民ファーストの会56,376
2当大松あきら公明党34,501
3当そねはじめ日本共産党30,374
4落高木けい自由民主党29,135
5落和田宗春民進党8,316

結果は、音喜多氏の圧勝、最大ライバルだった高木氏のまさかの敗北。定員枠が減っていなかったら、高木氏は当選していたというとんでもない皮肉でした。これは北区だけでなく、諸島部を除いたすべての選挙区で、都民ファーストの会は自民党に圧勝しました。都民ファーストの会は公明党と手を結び、都議会の過半数の議席を抑えました。公明党は国政では自民党と組み、都政では都民ファーストの会と組むという構図です。なお、選挙期間中、斉藤里恵氏も音喜多氏の応援演説に駆けつけています。政治家界隈の常識、「選挙の恩は選挙で返す」というやつですね。

さて、当選翌日ですが、音喜多氏は都民ファーストの会の役職から突然外されました。代わりに都民ファーストの会の要職は、自民党出身者、民進党出身者、小池氏の元秘書の三名で構成されました。また、新人議員が多いとのことで、取材に不慣れな者も多く失言を回避するなどの理由で当選者の取材を制限し、選挙前まではマスコミに多数出演していた音喜多氏は、マスコミにほぼ出られなくなりました。

2017年秋、衆議院選挙が近づきます。依然として圧倒的な人気を誇る小池都知事は、旧民進党出身者が中心となる「希望の党」と手を結んでおり、国政の勢力図が大きく変わりかけていました。このとき音喜多氏は、都民ファーストの会の離党会見を行い、内情を暴露します。この会見は小池ブランドに少なからず影響があったとみられ、希望の党は惨敗。一方で、希望の党に入れてもらえなかった民進党出身者たちで構成された立憲民主党が野党第一党に躍り出ます。またこの離党で音喜多氏は、賞賛されるか、風見鶏・裏切り者と言われるか評価が大きく二分されることが際立ってきました。

★参考までに北区を含む東京12区の結果
(音喜多勢力の影響のない、北区の構図)
1当太田昭宏公明党(自由民主党推薦)112,597
2落池内沙織日本共産党(立憲民主党、自由党、社会民主党、新社会党推薦)83,544
3落中村勝議員報酬ゼロを実現する会21,892

都議選で落選した高木啓氏は、ここで比例東京ブロックで当選し、衆議院議員になります。

2018年秋、無所属となった音喜多氏は翌年の地方統一選に備え、地域政党「あたらしい党」を設立し、自ら党首となります。また、都議会では、同じく一人だった柳ヶ瀬裕文都議(日本維新の会)と共同会派「維新・あたらしい・無所属の会」を設立し、小池都政に是々非々というスタンスで二人で活動を開始しました。

2019年4月、地方統一選の一環として、北区区長選挙、北区区議会議員選挙が行われました。音喜多氏は、北区区長選挙に立候補します。これによって、東京都議会議員を辞職することとなりました。今回の補欠選挙の原因はこれです。また、北区区議会議員選挙では、あたらしい党の公認候補として、駒崎美紀氏が立候補し、二人三脚で選挙活動を行います。なお、都議時代に組んでいた維新の柳ヶ瀬氏は、音喜多氏に好意的な反応をしていたものの、音喜多氏は当時は維新からの推薦や公認を固辞していた模様です。この時には、斎藤理恵氏は北区区議会選挙に出馬しませんでした。また、佐藤古都氏が音喜多駿事務所で政策スタッフとして活動しておりました。

★2019年北区区議会選結果
1当こまざき美紀あたらしい党7,335
2当やまだ加奈子自由民主党6,238
3当戸枝大幸自由民主党5,932
4当うすい愛子立憲民主党5,541
9当山中りえ子都民ファーストの会3,588
10当吉田けいすけ日本維新の会3,585

★2019年北区区長選結果
1当花川よそうた無所属(自民、公明、立憲、社民推薦)
65,807
2落おときた駿あたらしい党54,072
3落川和田ひろし無所属(共産党推薦)22,213

あたらしい党の駒崎氏がトップ当選です。音喜多陣営は、大選挙区でトップ当選を2回生み出したことになります。一方、区長選は高木啓衆議院議員の支援した花川氏が当選し、音喜多氏は落選しました。高木氏にとっては、かつての都議選の雪辱を果たしたことになります。

音喜多氏は投票日の投票数では優勢でしたが、組織票が多いと言われる期日前投票では花川氏が勝っていました。この組織票は、音喜多氏の新興勢力を既成政党である自民・公明・立憲・社民が警戒し、強い団結を訴えたからだとみられています。実際にここで潰しておかないと、全国各地に地域政党ブームが到来する可能性があり、既存の政治勢力が崩壊する可能性があったためです。

この敗北により、音喜多氏をトップに据えていたあたらしい党は、実質的に崩壊の危機にみまわれました。そのタイミングで、都議時代に組んでいた維新の柳ヶ瀬氏が音喜多氏を2019年7月の参議院選に誘います。音喜多氏は日本維新の会公認、あたらしい党推薦という座組で再度、選挙に挑むこととなります。

★2019年参議院選東京選挙区、北区区内の結果
1当丸川珠代自由民主党27,763
2当山口なつお公明党27,417
3当おときた駿日本維新の会26,687
4当吉良よし子日本共産党21,552
5当塩村あやか立憲民主党14,809
6落山岸一生立憲民主党9,818
7当たけみ敬三自由民主党9,440

上記は、あくまでも北区区内の結果です。この参議院選では斉藤里恵氏が立憲民主党から全国比例で出馬しましたが、落選しました。

以上、歴史を辿ることで絶妙な勢力関係が見えてきたでしょうか?
これで貴方も北区マスター!

※本記事は、天風氏の公認に合わせ、一部リライト、追加しました。(2020/6/1)