「冒険したい」

そう思って海外旅行に出かける人は少なくありません。とはいえ多くの海外旅行は、冒険とは程遠いものです。移動は飛行機や列車やバスの中。狭い乗り物の中でじっと座っていると、いつの間にか目的地に着いています。また降りた先も大都会ならば、大まかな体験は日本の大都市とあまり変わりません。ガイドブックや旅行会社の案内に従って、観光地と称されるところを見て回り、慌ただしく買い物を済ませて、名物と称されるものを食す。これはまるで、テレビゲームを攻略本を見ながら攻略し、攻略本に書かれている予定調和の結果をただ再現しているようなものです。


しかし私の古い友人に、そんな旅では飽き足らず、ロマンを追求し続けた男がいます。


モンゴル乗馬キャラバン2007-01



NPO法人奔流中国・代表張宇。ハルピン出身の彼は、日本を拠点にして、日本の若者をモンゴルやシルクロードの乗馬の旅にいざなっています。このツアー「乗馬キャラバン」は、他の大手旅行会社が企画するようなツアーと一線を画し、冒険といっていい程ストイックなものです。通常、初心者は10㎞乗馬すると疲労や痛みで泣き言を言い始めます。しかし、このツアーでは100㎞以上乗馬します。そんな過酷とも言えるツアーですが、参加者の半分以上が乗馬未経験者で、大体の人が最後までドロップアウトせず、達成感を味わいます。このツアーには毎年数百人参加しており、乗馬の魅力に憑りつかれてしまうと、リピーターになる人も少なくありません。かくいう私も、5回参加しています。


ただ、張氏は更なるロマンを求めました。漢から古代ローマまで通じていたシルクロード。彼はこの絹の道を、キャラバンで横断したいと目論んだのです。その野望を実現させるため、彼は2007年「グレートキャラバン」というプロジェクトを立ち上げました。元々、通常のツアーである「乗馬キャラバン」は観光地ということもあり、単にその辺り一帯を周遊するだけならば、馬を借りるのはそこまで苦ではありません。


しかし、現代では遊牧民でさえ、移動は自動車かバイクが当たり前となり、古代の道の跡を馬は走らなくなっていました。また、馬は非常にデリケートな生き物であり、短期間で長距離を走らせると簡単に死んでしまいます。さらに綺麗な飲み水が無いと馬は死んでしまいますが、地図無き失われてしまった道を走るとなれば、これも安定的に確保できるのか難しいところです。張氏の試みは、現代の遊牧民にとって、無謀そのものだったのです。


それでも彼はグレートキャラバンを開始しました。いかに道なき道を切り開いたのか、どのように遊牧民と交渉をしたのか、西域のバザールの賑わいに何を見出したのか、グレートキャラバンに参加した日本の若者達は何を感じたのか。モンゴル高原の東シラムリン草原からシルクロードの中心バインブルク草原でのドラマは聞けば聞くほど引き込まれるものがあります。


なお、張氏は最近、自身の体験を本にまとめました。奔流中国の企画は時折テレビでも取材を受けますが、遊牧民同士のリアルタイムで込み入った激しいやり取り、触覚等五感で感じたことの丁寧な描写など、映像の限界からそこに映しきれないものも多数存在します。発売前に原稿を拝見しましたが、映像で見るよりも、旅のなまなましさが伝わってきました。冒険記としても、中央アジアの民族研究の史料としても一読の価値はあるでしょう。






ついでに自分のことも言っておきますと、私は学生時代に奔流中国でよく映像を撮っていました。それについては、こちらの記事を参照してください。
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