超教育協会が主催する「VR×教育ワーキンググループ」というカンファレンスに行ってきました。そのタイトルのとおり、VRを教育に活かせるのか、どう活かすのかということをテーマに、登壇者(大学の先生方、関連企業の担当者)がスピーチしたり、意見を述べたりしていました。稲美昌彦氏曰く、VRの特徴は「体験メディア」「変身メディア」「時空を超越」の3つが挙げられるといいます。これを切り口に、そこで見聞きしたものをまとめ、考察してみます。


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【1】体験メディア

危険な現場、大規模な現場、訓練するには予算がかかり過ぎる現場、失敗すると取り返しのつかない現場などを再現し、シミュレーションができるというのです。例えば、外科手術というのは失敗は人命に関わります。これをVRで精巧に再現し、訓練できるというのです。デジタルハリウッド大学学長によると、コンサートの本番をVRで再現することにも教育への利活用ができるとのこと。照明担当がライティングを訓練したり、パフォーマーが観客のいる前のプレッシャーに耐える訓練をしたりすることができるのです。ここから派生して、ビジネスマンが、プレゼンテーションの練習をしたり、謝罪会見の練習をしたりしたら面白いですね。

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他にも、災害を再現するというソフトウェアがあり、自治体の避難訓練で利用されている模様です。大雨が降り、水深70mまで水が溢れたら、周囲はどのようになるか。一度、VRで体験すると、どのぐらい恐ろしいのか実感が湧き、アンケートでは防災意識が高まったのこと。火災で煙があふれた状況、津波がやってきたときの状況などのソフトウェアもあるそうです。

百聞は一見にしかずというか、字面を読むのは一回の体験に及ばないというか、VRの体験学習というのは、教育には特に相性が良さそうだと言えます。

【2】変身メディア

東大の鳴海拓志氏曰く、VRによって、人は自分を変身させたり、拡張させたりできます。つまり、アバダを使って自分自身を表現したり、もしくは自分の能力を補正するような結果をVR世界に投影したりするということです。これによって、非常に興味深い教育効果が期待できそうです。

例えば、自尊心の低い人がVRでアバタをアインシュタインにすると、認知課題の成績が向上するという結果が出ました。寝巻から制服に着替えると気が引き締まるみたいな効果でしょうか?また、嘘つき鏡という訳ではありませんが、お互いが笑顔に見えるビデオチャット環境でブレインストーミングすると、何もしないときに比べて、提案数が1.5倍になったという実験結果もあります。VRによって感情を操作され、創造性が向上したのです。さらに、能力補正による身体拡張と言いますと、マリオみたいなアクションコンピュータをするとき、VRで操作に補正をかけクリアさせると、本当に操作がうまくなり、またゲーム継続へのモチベーションが上がるという実験もありました。

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身体拡張は何も自分が変身するだけではありません、分身や合体だってできるのです。これはカンファレス中に出たアイディアですが、テニスの練習で、自分の分身とダブルスを組む、もしくは自分を相手に試合をすると、自分の行動の癖を理解できるというのです。逆に合体では、一流プレーヤーと合体し、ラケットの素振りに自分と一流の乖離が無いかを確認すると、より正しいフォームで素振りができるようになるでしょう。


他に、変身というよりも、別の人の経験を再現し、追体験できるというやり方もあります。例えば、男性が女性の視点になり、セクハラ攻撃をされるといった具合です。これは従業員に対するハラスメント対策教育にも、効果的かと思われます。

これらは、やりようによっては、世論を扇動したり、悪徳商法に応用したりできそうですが、偉大なる力はもろ刃の剣であって、うまく使えば、我々はこれまで引き出しきれなかった実力を発揮できることになるでしょう。




【3】時空を超越

動画を見るときは、早送りしたりスロー再生したりすることが可能です。一種の時空操作です。VRでこれを応用することで、教育効果が期待できそうです。

例えば、「けん玉できたVR」というスロー再生のVR世界でトレーニングすると、リアルの世界でもけん玉初心者もできるようになるとのこと。実際のけん玉って、球の落下スピードが早すぎて、初心者は訓練中に続けるモチベーションを失い、習得できない人も多いでしょう。スローにし、難易度を下げることによって、成功体験を積ませ、技術とモチベーションを上げるのです。




上記のように、VRの教育への利活用には非常に大きな可能性があることが分かります。しかしながら、パソコン教育の普及に20年かかるぐらい、イノベーションにはいつだって課題はつきものです。実際に、私は5年前までeラーニングの動画教材を作るのが本職であり、部分的には上記の一部のメリットを有した教材を作ってきました。しかしながら、さほど儲かる商売でもなかったため、リストラに遭い、今は違う仕事についている訳です。カンファレンスではグリーの原田氏が、収益性が課題とさりげなく述べていましたが、高度化するコンテンツには尋常じゃなく金がかかります。

中高生がスマホのカメラでTikTok動画を撮影している一方、本格的な映像業界では、カメラ一台を中心とした撮影クルーと共に数日撮影してようやくできた、わずか数十分のコンテンツに数百万円が飛んでいくのです。ましてや、全方位(あるいは人間の視野角200度)の世界の再現、その世界内の挙動をプログラミングもしくはAIで作成となると、開発費はいかほどかかるものか。コストカットが叫ばれる昨今の世の中で、企画の手間暇も、技術も、開発費も格段に上がるVRは、どれだけもてはやされ、一般化されるのでしょう?

可能性があるとすれば、職業に求められる技術が高度化、複雑化がより進み、一般人が専門書を2,3冊読む程度では仕事を到底理解できなくなるような世界が到来したとき。VR教育は意外とコスパが良いものとして、求められていくかもしれません。そして、もし一般化できた場合は、我々は小説や映画以外の方法で、沢山の人の生き方を追体験し、ひとつの命で複数の人生を経験できるかもしれません。