講師・先生というお仕事は、子ども相手に教育をするとは限りません。例えばですが、私の職歴をみると、様々な形で「人に物を教える」ことに携わっています。

私が新卒で入社した会社は、主に会社員教育のためのコンテンツを提供するeラーニングベンダーでした。そこでの私の業務は金融系、機械系、医療系と様々な会社の教育コンテンツを作成し、これを運用することでした。また、ときには先生の先生として、講師業のコンサルみたいなこともしてました。その後、職業占い師として活動していたときは、占いのやり方を教える講師をしていました。今の仕事は、「ネットワークエンジニアサポート」というのですが、具体的に何をやっているかといえば、とあるIT製品に関わる講師業みたいなことをしています。

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という訳で、私の職業人生の裏テーマになりつつあるキャリアのひとつは「社会人教育」です。もしくは一種の「生涯学習」です。様々な社会人に、様々なことをお教える仕事をして、どことなくポリシーのようなものが出来てきたので、自分のスタンスの棚卸でもしてみようと思います。

【1】講師だからと言って偉そうにはしない

学校教育の場合、先生と生徒というのは、大人と子どもの関係です。大人が必ずしも全部正しいという訳ではないですが、人生経験、知識、実務能力に関しては子どもより勝っていることが多いです。という訳で、教える内容というのは、教科書の範囲だけに留まらず、生活指導、進路指導など、人格にも影響を与えるような内容をも含みます。

一方で、社会人教育というのは、大人対大人の関係です。教わる方もそれなりに何かしら特技や武器を持つことでここまで生きてこられた訳ですので、少なくともその武器の分野においては講師より勝っている可能性があります。その講義内容そのものでは、確かに講師は上に立つ側ですが、生き方全般や講義という枠組みそのものでは、上下などというものはありません。それどころか、本当に上下関係の話をしてしまうと、お金の上流は受講者側にある訳で、むしろ講師の方が頭を下げるべきというぐらいです。知識とお金の対等な交換という意味では、お互いに大人として敬意を示しあえる関係が一番丁度良いかと思います。

【2】勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし

教育者には大きく分けて、2タイプいると言われています。「自分のようになれというタイプ」と「自分のようになるなというタイプ」です。私は断然、後者のタイプです。

まず、前提として考えて頂きたいのは、社会人の世界というのは、正しい答えが無い世界だということです。江戸時代の大名・松浦静山は「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」と言っていますが、成功者の話を聞き、それを真似ただけでは成功し得ないということがあります。偶然的要素やタイミング等が多分に関わるものであり、再現性が薄い為です。そういった意味では、何をどうしたとき、失敗したのかをきちんと伝えることの方が大事かと思います。

ところで、単なる知識の伝達であれば、本来「テキストを各自読んで理解してください」で終わりなのですが、講義にはどのような意味があるのでしょうか?ざっと挙げるならば、次のとおりです。講師の肉声(発音の訓練、聴覚による印象補正)、動的なイメージの伝達(ロールプレイ、演習、実験)、リアルタイムな習熟度チェックによる進度の調整や補足、そして雑談です。

特に雑談においては、受講生のモチベーションを上げる内容の他、あえてテキストには書かない書けない書きたくない内容というのもあります。その書きたくない内容、テキストとして形の残して大量配布したくない内容というのが失敗談なのです。二の舞を演じるなと、失敗の経験を伝えることこそ、現場をリアルに理解できる最高の教材だと、私は思います。

まあ実際のところ、自分のようになれタイプ講師の方が、カリスマ性を感じさせるので、受講者の心を掴みやすいです。ある程度答えが定まっている学校の受験であれば、もしくは、怪しげなビジネスや思想のセミナーであれば、そっちの方が良いでしょう。

【3】教え過ぎたとしても構わない

講師業というのは一つのビジネスです。ただ、このビジネスモデルの欠点は、自らが競合を生み出すということでしょう。講師の教えを体得した受講生が、講師になってしまい、新たな受講生を奪ってしまう可能性だってあるのです。その対策として、一番大事なところを教えないなどして、受講生が自分を超えないようにする人もいます。

ただ、私のスタンスとしては、次の理由から、そういった大事なところも教えて良いものだと考えています。

・受講生に知識やスキルを授受することが、講義の本来の価値である。
・ちょっと教えてすぐ真似されるような内容は、この情報化社会でそもそも価値がない。
 もしくは自分が教えているという意味でも価値がない。
・受講生に抜かれる前に、自らの知識やスキルをさらに磨いて、圧倒的差をつけるべき。

講師は、ふんぞり返って同じ内容を受講生に教え続けるのではなく、研究や経験を重ね、最新情報にアンテナを張って、自らが学習をし続ける必要があるのです。